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山形地方裁判所 昭和36年(ワ)257号の2 判決 1963年3月18日

原告 金野定吉 外八名

被告(被参加人) 港タクシー株式会社

補助参加人 山田正信 外一名

主文

被告会社が昭和三十六年九月十六日の臨時株主総会に於てなした取締役金野定吉、同岡部正美、同白井正、同長坂弥一郎、同石黒貞男、同難波熊吉、同村田悌雄、監査役池田輝吉、同菅原磯治郎を解任する旨の決議並びに同総会に於てなした宅井寅治、山田正信、高橋勇、池田龍治、加藤伝治を取締役に、佐々木禎肋、田村昂一、奥山仙治郎を監査役に選任する旨の決議は何れも之を取消す。

原告等の株主総会決議無効確認の請求は何れも之を棄却する。

訴訟費用中、参加によつて生じた部分は参加人等の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、第一次的に、被告会社が昭和三十六年九月十六日の株主総会に於てなした金野定吉、岡部正美、白井正、長坂弥一郎、石黒貞男、難波熊吉、村田悌雄の各取締役解任、池田輝吉、菅原磯治郎の各監査役解任並びに宅井寅治、山田正信、高橋勇、池田龍治、加藤伝治の各取締役選任、佐々木禎助、田村昂一、奥山仙治郎の各監査役選任の決議は無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を、予備的に、主文第一項と同旨及び訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

一、被告会社は、酒田市十王堂町六十番地に本店を有し、一般乗用旅客自動車運送事業及び之に関連する事業を目的として昭和三十一年十一月二十一日設立され、その発行済株式総数は四千株、一株の券面額は金一千円であるところ、原告等は何れも被告会社の株主であつて、昭和三十六年二月十八日原告金野、同岡部、同白井、同長坂は取締役に、原告池田、同菅原は監査役に、同年五月二十八日原告石黒、同難波、同村田は取締役に夫々選任されて被告会社の経営に当つて来た。

二、然るに、被告会社の発行済株式総数の百分の三以上に当る株式を有する株主である訴外宅井寅治、同山田正信、同佐々木禎助、同田村昂一等は、当時の取締役等に義務違反の所為が有ることを理由に臨時株主総会の招集の必要があるとし、同年六月二十四日被告会社取締役にその招集を請求したが之を拒絶されたため、山形地方裁判所酒田支部に該株主総会招集の許可申請をなし、同年七月二十九日「会社の業務及び財産の状況調査並びに取締役、監査役行為検査のための検査役選任の件」を会議の目的たる事項とする総会招集許可決定を得た上、同年八月四日各株主に対し左記事項を記載した臨時株主総会招集の通知を発するに至つた。

(一)  日時 昭和三十六年八月二十日午後一時

(二)  場所 酒田市鍜冶町竹八旅館

(三)  議案 会社の業務及財産の状況調査並に取締役、監査役の行為検査のための検査役選任の件

三、而して、右の招集手続によつて開かれた臨時株主総会に出席した株主及びその有する議決権の数は次の通りである。

(一)  出席株主及び持株数

宅井寅治    五九一株

山田正信     五〇株

高橋勇       五株

奥山仙治郎     五株

田村昂一     五〇株

加藤伝治    一三〇株

池田龍治     四八株

佐々木禎助    五〇株

佐々木与蔵   一五九株

計九名   一、〇八八株

合計一四名 一、五六〇株

(二)  委任状提出株主及び持株数

佐藤美保子   三〇〇株

石黒成男     五〇株

小島貞次     二〇株

土井重男      二株

宮崎二郎    一〇〇株

計五名     四七二株

四、その後、訴外宅井、同山田、同高橋、同奥山等は継続会と称し日を改めて数回会合を重ねた上、同年九月九日に各株主に対し左記事項を記載した臨時株主招集の通知を発した。

(記) 臨時株主総会招集通知 拝啓 残暑の候御尊台皆様益々御清祥の段大慶と存じます 陳者 当社臨時株主継続総会(第五回)を左記により開会致しますから万障御繰合せの上是非御出席下さるよう願上げます 敬具

(一)  日時 昭和三十六年九月十五日午後一時

(二)  場所 酒田市鍜冶町 竹八旅館

(三)  報告事項 (イ) 検査役の経過報告 (ロ) 其の他

五、右臨時株主継続会(第五回)に出席した株主とその有する株式数委任状提出株主とその有する株式数は前記八月二十日の場合と同じであつた。次いで、翌九月十六日午前十時半頃訴外山田、同高橋、同奥山の三名が突然被告会社の本店を訪れ、折柄同所に居合わせた原告長坂、同岡部の両名に対し、本店の二階に於て継続会を開催するから出席すべき旨要求したので右原告等が之を拒絶したところ、その後の九月二十日に至り、訴外宅井より被告会社代表取締役金野定吉に宛て、原告等が昭和三十六年九月十六日の臨時株主総会で解任され、訴外宅井、同山田、同池田、同高橋、同加藤等が取締役に訴外佐々木、同田村、同奥山が監査役に夫々選任されたから九月二十日午後一時帳簿引渡並びに事務の引継を要求する旨の内容証明郵便が送達された。そこで原告等は不審に思い、山形地方法務局酒田支局に於て被告会社の登記簿を閲覧したところ、九月十六日の臨時株主総会に原告岡部、同長坂の両名が出席した旨記載された株主総会議事録が添付されており、右虚偽の議事録の下に、原告等の取締役、監査役の解任、訴外宅井等の取締役、監査役選任の登記が経由されている事実を発見した。

六、爾来、訴外宅井、同山田、同高橋、同池田、同加藤は取締役として、訴外佐々木、同田村、同奥山は監査役として被告会社の業務を執行しつつあつたが、右九月十六日の所謂臨時株主継続会の決議は当然無効であり、仮に無効でないとしても取消さるべきものであることが明らかなので、原告等は、訴外宅井等八名を相手取り、山形地方裁判所酒田支部に職務執行停止代行者選任の仮処分命令を申請して、昭和三十六年十月二十三日訴外宅井外四名の取締役の職務並びに訴外佐々木外二名の監査役の職務の執行を停止し、弁護士加藤勇を代表取締役の、原告岡部、同長坂を取締役の、原告池田を監査役の各職務代行者に選任する旨の仮処分命令を得たので、現在被告会社の業務は右代行者等によつて執行されている。

七、以上の次第で、前記昭和三十六年九月十六日の株主総会は、少数株主が裁判所の許可を得て招集した株主総会ないしその継続会であつて、右株主総会で決議し得るものは、会議の目的たる事項として裁判所の許可を得た事項に限られるものであり、これ以外の事項を決議してもそれは招集権限のない者の招集した株主の集会に外ならないから、右総会の決議は無効である。仮に然らずとしても、後段第八項(三)に記載の如く、昭和三十六年八月二十日の最初の株主総会が、そもそも定足数不足により何等の決議をもなし得なかつたのであるから、之に継続する同年九月十六日の株主総会決議は、法律上不存在であつて当然無効である。

八、仮に、右主張が理由がないとしても、右決議は次の事由により取消されるべきであることが明らかである。即ち、

(一)  前第二項で述べた如く、昭和三十六年八月四日少数株主代表者訴外宅井が発した臨時株主総会招集の通知には、会議の目的たる事項として、「会社の業務及び財産の状況調査並に取締役監査役の行為検査の為めの検査役選任の件」と記載されてあるのみで、取締役、監査役の解任、選任については何等の記載がなく、又、招集目的について裁判所の許可を得ていない事項は之を記載することが出来ないし、仮に記載したとしても最初の総会或いはその継続会に於て之を決議することは許されない。従つて、右決議は臨時株主総会招集通知書に記載のない事項について決議した点に於て総会招集手続に法令違反があり、裁判所の許可を得ていない事項について決議した点に於て決議の方法に法令違反があり、何れにしても取消されるべきものである。

(二)  又、前記九月十六日の臨時株主総会なるものは、訴外山田、同高橋、同奥山の三名が突然被告会社本店を訪れ、此処を借用して総会を開くからと一方的に宣言して開催したものであつて、たとえ、訴外宅井等の委任状提出株主の議決権を併せても、前第三項に記載の如く一千五百六十株に過ぎず、取締役監査役の解任に関し規定した商法第二百五十七条第二項所定の定足数を欠くこと明白であるので、この点に於ても決議の方法に法令違反があり、取消されるべきものである。

(三)  そもそも、裁判所の許可により招集された前記八月二十日の最初の臨時株主総会に於て、既に定足数不足のため何等の決議もなし得なかつたのである。即ち、前記一千五百六十株の議決権数では、被告会社の発行済株式総数四千株の過半数に達せず、商法第二百三十九条に規定する条件を充たすことが出来ないから、従つて延期続行の決議もなし得ないところである。

九、以上の如く、前記九月十六日の継続会なるものは、何等法令定款に基くことのない一部株主の集合に過ぎないものであり、その決議は無効か然らずんば取消されるべきものであるから、原告等は、第一次的にその無効確認を、予備的にその取消を求めるため本訴に及ぶ次第である。

と陳述し、参加人等の主張に対し、(一)参加人等は、職務代行者が訴訟代理人を選任し得るか否か頗る疑問であると主張する。而して、その意味するところは、職務を代行せられる者が辞任しているので、代行者の地位乃至権限が喪失しているのではないかという点に在ると思われるが、仮処分命令によつて選任された職務代行者の地位は、裁判所の発した仮処分命令自体に基くものであつて、この命令が取消されない限り職務代行者としての地位、権限を有し、代行せられる者が辞任したか否かにより何等影響を受けないものと言うべく、従つて、訴訟代理人を選任する権限を有することは明らかである。(二)又、参加人等は、昭和三十七年七月二十二日本件原告の一人である岡部正美が被告会社の代表取締役に選任されたので、このままの状態で本件訴訟を進行させることが適法か否か疑わしい旨主張する。右選任の事実は原告等も之を認めるところであるが、然し、右の一事によつて、従来の職務代行者の地位及び代行者より委任された訴訟代理人の地位が、何等の影響をも受けないことは、今更多言を要する迄もないことである。若し、将来に於て職務代行者の地位が消滅した場合には、民事訴訟法第五十八条、第五十六条の規定により、被告会社を代表すべき者を定めるべきである。(三)更に、参加人等は、本件に商法第二百六十一条の二が適用されるべきである旨主張するけれども、本件原告等は被告会社のすべての取締役及びすべての監査役であり、且つ本訴は原告等が会社機関としてなすものであるから、かような場合同法同条の適用はないものと解する、と抗争し、立証として、甲第一、二号証、同第三号証の一、二を提出し、証人小川惣次の証言及び原告本人白井正、同村田悌雄、同岡部正美、同長坂弥一郎の各尋問の結果を援用すると述べた。

被告訴訟代理人は、原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、答弁として、請求の原因第一、二項は之を認める、同第三項は本文及び(一)の点を認め、(二)の点を争う、同第四項は之を認める、同第五項は、原告等主張の内容証明郵便送達の事実及び解任並びに選任の各登記手続が経由されている事実を認め、その余を争う、同第六項は、原告等主張の総会決議が違法であるとの点を否認し、その余を認める、同第七項以下はすべて之を否認する、と陳述し、立証として、証人宅井寅治、同山田正信、同高橋勇、同奥山仙治郎の各証言を援用し、甲号証は、全部その成立を認めると述べた。

参加人等訴訟代理人は、本件訴は、被告会社の代表者を、裁判所の決定せる代表取締役の職務代行者として提起されているが、之より先昭和三十六年十一月十九日に職務を代行せらるる被告会社の取締役監査役の全員が辞任しているので、かかる場合、職務代行者が訴訟代理人を選任し得るや否や疑問であるのみならず、其後昭和三十七年七月二十二日原告の一人である岡部正美は、被告会社の代表取締役に選任され(尤も右選任決議については取消訴訟が提起されている)、原告岡部が同時に被告会社の代表者になつたので、この儘での訴訟の進行が果して適法か否か疑わしく、且つ、本件訴には、商法第二百六十一条の二が適用されるべきであると思料する、と陳述した。

理由

一、請求の原因第一、二、四項の各事実、同第三項本文及び(一)の事実同第五項の内、昭和三十六年九月二十日訴外宅井より被告会社代表者金野定吉宛に、原告等が同年九月十六日の臨時株主総会で解任され、訴外宅井、同山田、同池田、同高橋、同加藤等が取締役に、訴外佐々木、同田村、同奥山が監査役に夫々選任されたので、同年九月二十日午後一時帳簿引渡並びに事務の引継を要求する旨の内容証明郵便が送達された事実及びその頃、同年九月十六日の臨時株主総会に原告岡部、同長坂の両名が出席した旨記載された株主総会議事録が作成された上、原告等の取締役、監査役の解任、訴外宅井等の取締役、監査役選任の各登記手続が経由された事実、並びに、同第六項の内、昭和三十六年九月十六日の臨時株主総会の決議が無効であるか若しくは取消されるべきであるとの主張を除くその余の事実は、何れも各当事者間に争がない。

二、よつて先ず参加人等の主張について判断するに、

(一)  参加人等は第一に、本件訴は、被告会社の代表者を、裁判所の選任した代表取締役の職務代行者として提起されているが、これより先、昭和三十六年十一月十九日に職務を代行せられる被告会社の取締役、監査役の全員が辞任しているので、かかる場合、職務代行者が訴訟代理人を選任し得る権限を有するや否や疑問であると主張するが、商法第二百七十条に規定する職務代行者の職務権限は、裁判所が民事訴訟法の規定に則り、その自由なる裁量に基き之を選任する仮処分命令自体に職由するものであつて、職務執行停止を命ぜられた者の代理人と目すべからざるは勿論、当該会社の本来の機関と見るべきではなく、裁判所によつて創設された独自の職務権限を持つ特別な職務執行者であり、唯その執行すべき職務権限の本質と範囲が、職務執行停止を命ぜられた者のそれと一致するに過ぎないものと言うべきである上に、右代行者の地位権限は、本案訴訟の確定又は仮処分命令の取消ある迄存続し職務執行停止者の辞任、解任及び之に代わるべき新取締役の選任等によつて当然消滅することなく、唯、かかる事由は、通常民事訴訟法第七百四十七条、第七百五十六条に所謂事情変更に該当するものとして、仮処分取消の事由となるに止まると解するのが相当であるから、未だ代行者選任の仮処分が取消されていないこと明らかな本件に於て、被告会社の代表取締役の職務代行者が訴訟代理人を選任する権限を有することは、明白であると言わねばならない。

(二)  参加人等は第二に、昭和三十七年七月二十二日原告の一人である岡部正美は、被告会社の代表取締役に選任され、原告岡部が同時に被告会社の代表者になつたので、この侭での訴訟の進行が果して適法か否か疑わしいと主張するが、裁判所により選任された職務代行者が、本案訴訟の確定又は仮処分命令の取消ある迄その地位権限を維持するものであり、職務執行停止者の辞任、解任或いは新取締役の選任等によつて当然にその権能を失うものでないこと前説示の通りである以上、かかる代行者の行為及び之に対してなされた行為のみが当該職務の適法なる執行々為となるべきことは今更多言を要しない。換言すれば、原告の一人岡部正美が昭和三十七年七月二十二日に被告会社の代表取締役に選任されたことは、昭和三十六年九月十六日の旧代表取締役解任及び新代表取締役選任決議の有効無効が、本件訴の判決によつて確定されることを条件として予備的になされたものと解するを相当とすべく、その結果、右選任の事実は何等職務代行者の爾後の地位権限に制約を与えるべき性質のものでないと考えられるので、右主張は採用することが出来ない。

(三)  参加人等は第三に、本件訴には商法第二百六十一条の二が適用されるべきであると主張する。然らば、原告等が、株主、取締役若しくは第三者の何れの資格に於て本訴を提起したのかが検討せらるべき先決問題である。先ず、原告池田、同菅原の両名は株主兼監査役であつたので、第一次的請求の決議無効確認の訴に於ては、株主として訴を提起するのに最も正当な利益を有するものと言うべく、又予備的請求の決議取消の訴に於ては、訴の提起権者が株主又は取締役に限定されているので、同様に株主の資格に於て本訴を提起したものと見る外はない。次に、その他の原告七名は株主兼取締役であつたのであるから、純理論上は取締役又は株主の何れの資格に於て訴を提起するも妨げない筈であるが、取締役に決議取消の訴権が認められる趣旨が、会社ないし株主全体の利益の擁護にあるものと考えられるので、かかる場合、訴は常に取締役たる資格に於て提起されたものと解する。そうだとすると、本件の如く、解任された取締役がその解任決議の無効取消を、取締役たる資格に於て訴え得るかと言う点が問題にされなければならないところ、之を消極に解する有力な見解が存在するけれ共、解任された取締役は、解任決議の無効確認判決又は取消判決によつて遡及的に取締役に復帰する潜在的地位を有するのであるし、且つ、商法第二百四十七条が、取締役に決議取消の訴を提起する権利を認めているのは、取締役をして決議の瑕疵を攻撃せしめ、株主総会の運営を監視させようとすることに出ているものと推知されるので、解任された取締役にも提訴資格を認めるのが相当である。

以上のように推論すると、参加人等主張の通り、本件に商法第二百六十一条の二の適用を見るべきものの如くであるが、同法同条の規定は、会社と取締役間の訴訟に於て、代表取締役をして会社を代表させることは会社の利益を害する虞があるので、この場合代表取締役に会社を代表する権限なしとする趣旨であることが明らかであるところ、本件の如く、会社の全取締役によつて訴が提起されたときは、同条第一項を適用する余地がないのは勿論のこと、会社の業務執行機関たる全取締役と、会社の最高意思決定機関たる株主総会とが対立状態にあると見るべきであるから同条第二項をも適用すべきでなく、民事訴訟法第五十八条、第五十六条により会社を代表すべきものを定めるのが妥当であると考える。然し乍ら本件に於ては既に裁判所により被告会社の代表取締役の職務代行者が選任されて居り、その地位は半ば公の機関であり、その職務執行は公平妥当であるべきことが当然期待されるところであつて、この上更に民事訴訟法第五十八条、第五十六条の規定に基き被告会社のため特別代理人を選任することは、言わば屋上屋を重ねるが如きもので何等その必要のないことである。従つて、本件に於ては商法第二百六十一条の二の適用がないと解するのが相当であり、之に反する参加人等の主張にはにわかに賛同することが出来ない。

以上の通り、参加人等の主張はすべて理由がなく、排斥を免かれないものである。

三、そこで進んで本案について判断を進めるに、成立に争なき甲第一乃至第三号証、証人小川惣次、同宅井寅治、同山田正信、同奥山仙治郎の各証言及び原告本人白井正、同村田悌雄、同岡部正美、同長坂弥一郎の各尋問の結果並びに前記当事者間に争なき事実を綜合すると、

(一)  被告会社は、酒田市十王堂町六十番地に本店を有し、一般乗用旅客自動車運送事業及び之に関連する事業を目的として昭和三十一年十一月二十一日設立され、その発行済株式総数は四千株、一株の券面額は金一千円であるところ、原告等は何れも被告会社の株主であつて、昭和三十六年二月十八日原告金野、同岡部、同白井、同長坂は取締役に、原告池田、同菅原は監査役に、同年五月二十八日原告石黒、同難波、同村田は取締役に夫々選任されて被告会社の経営に当つて来たこと、

(二)  然るに、被告会社の発行済株式総数の百分の三以上に当る株式を有する株主である訴外宅井寅治、同山田正信、同佐々木禎助、同田村昂一等は、当時の取締役等に義務違反の所為が有ることを理由に臨時株主総会の招集の必要が有るとし、同年六月二十四日被告会社取締役にその招集を請求したが之を拒絶されたため、山形地方裁判所酒田支部に該株主総会招集の許可申請をなし、同年七月二十九日「会社の業務及び財産の状況調査並びに取締役、監査役行為検査のための検査役選任の件」を会議の目的たる事項とする総会招集許可決定を得た上、同年八月四日各株主に対し、(イ)日時、昭和三十六年八月二十日午後一時、(ロ)場所、酒田市鍛治町竹八旅館、(ハ)議案、「会社の業務及び財産の状況調査並に取締役監査役の行為検査のための検査役選任の件」との事項を記載した臨時株主総会招集の通知を発するに至つたこと、

(三)  右の招集手続によつて開かれた臨時株主総会に出席した株主及びその有する議決権の数は、宅井寅治(五九一株)、山田正信(五〇株)、高橋勇(五株)、奥山仙治郎(五株)、田村昂一(五〇株)、加藤伝治(一三〇株)、池田龍治(四八株)、佐々木禎助(五〇株)、佐々木与蔵(一五九株)、以上合計九名、一千八十八株であり、その他委任状提出株主及びその持株数を併せると総株数が一千五百六十株に達したこと、而して、被告会社の定款第十二条に、「総会の決議は法令に別段の定めある場合の外出席株主の議決権の過半数によつて行う」との特別の定めが有るため、商法第二百三十九条に基き、発行済株式数の過半数を以つて通常決議を行う必要がないので、同日の臨時総会に於て、訴外高橋勇、同山田正信、同田村昂一、同池田龍治の四名を検査役に選任する旨及び同年八月二十七日に継続会を開催する旨の決議がなされたこと、

(四)  その後、訴外宅井、同山田、同高橋、同奥山等は、継続会と称し、同年九月三日、同月六日、同月九日と日を改めて数回会合を重ねた上、同年九月九日に各株主に対し、臨時株主継続会(第五回)と題し、(イ)日時、昭和三十六年九月十五日午後一時、(ロ)場所酒田市鍛冶町竹八旅館、(ハ)報告事項、検査役の経過報告その他、との事項を記載した招集の通知を発したこと、

(五)  次いて、右第五回継続会なるものが開催された翌九月十六日午前十時過ぎ頃、訴外山田、同高橋、同奥山の三名は被告会社の本店を訪れ、折柄同所に居合わせた原告長坂、同岡部の両名に対し本店の二階に於て継続会を開催するにつき出席すべき旨要求したが之を拒絶されたので、止むなく同訴外人等三名は同所に於て、委任状提出株主の株数をも併せ、一千五百六十株の議決権数を以つて第六回継続会を開催し、種々協議を重ねるうち、突然訴外奥山が、従来の会社役員全員を解任すべき旨の緊急動議を提案したので直ちに之を採択した上、原告等を取締役及び監査役より解任し、之に代るべき取締役として訴外宅井、同山田、同高橋、同池田、同加藤を、監査役として訴外佐々木、同田村、同奥山を夫々選任する旨決議し、昭和三十六年九月十九日山形地方法務局酒田支局に於てその旨登記手続を経由したこと、そして、翌二十日、訴外宅井より被告会社代表者金野定吉宛に、内容証明郵便を以つて、原告等が昭和三十六年九月十六日の臨時株主総会で解任され訴外宅井等が之に代るべき取締役、監査役に夫々選任されたから九月二十日午後一時帳簿の引渡並びに事務の引継を要求する旨通告されたので、原告等は不審に思い、山形地方法務局酒田支局に於て被告会社の登記簿を閲覧したところ、九月十六日の臨時株主総会に原告岡部、同長坂の両名が出席した旨記載された株主総会議事録が添付された上、原告等の解任、訴外宅井等の選任の登記が経由されている事実を発見したこと、

(六)  爾来、訴外宅井等は被告会社の取締役、監査役として業務を執行しつつあつたが、原告等は、訴外宅井等八名を相手取り、山形地方裁判所酒田支部に職務執行停止代行者選任の仮処分命令を申請し、昭和三十六年十月二十三日訴外宅井外四名の取締役の職務並びに訴外佐々木外二名の監査役の職務の執行を停止し、弁護士加藤勇を代表取締役の、原告岡部、同長坂を取締役の、原告池田を監査役の各職務代行者に選任する旨の仮処分命令を得たので、その後、被告会社の業務は右代行者等によつて執行されていること、

が夫々肯認される。証人宅井、同山田、同高橋、同奥山の各証言の内右認定に反する部分は措信し難い。

四、右の認定事実によつて考えるに、

(一)  先ず、昭和三十六年八月二十日の臨時株主総会は、少数株主が裁判所の許可を得て招集した適法な総会であり、その後之に引続き同年八月二十七日、九月三日、九月六日、九月九日、九月十五日、九月十六日と六回に亘り所謂継続会が開かれ、最終の継続会に於て、本訴の目的となつている役員の解任及び選任の決議が行われたものであるところ、右決議は、裁判所の許可した事項以外の決議に属することが明白である上に、後記認定の如き瑕疵を有するものであるが、かような決議でも一旦成立した以上は当然に不存在となるものではなく、唯、違法な決議として、決議取消の訴若しくは決議無効確認の訴に服するに止まると解すべきであるから右決議を以つて、法律上不存在のものと考えるのは相当ではない。

(二)  そこで、右九月十六日の決議に瑕疵が存在するか否かについて検討を加えるに、(イ)株主総会に於て決議し得る事項は、商法又は定款に規定のある事項に限られ、又、株主総会の権限に属する事項でも、特定の総会で決議し得る事項は、その招集通知に掲げられた事項に限られるものであり、之は、少数株主が裁判所の許可を得て招集した株主総会でも同様であるところ、本件に於ては、裁判所より、「会社の業務及び財産の状況調査並びに取締役、監査役行為検査のための検査役選任の件」についてのみ総会の招集を許され、各株主に対する総会の招集通知にも、会議の目的たる事項として右と同旨のことが記載されていたのに拘らず、九月十六日の継続会に於て突如、右通知事項とはおよそその範囲を異にし、然も招集通知を受けた株主の到底予見し得べからざる役員の解任及び選任の決議がなされたのであるから、右決議は、先ず総会招集の手続が法令又は定款に反してなされた点に於て違法であると言わねばならない。(ロ)次に、被告会社の定款第十二条に「総会の決議は法令に別段の定めある場合の外出席株主の議決権の過半数によつて行う」旨の特別の定めがあるので、昭和三十六年八月二十日の総会及び之に続く六回の継続会は、何れも適法に開催されたものと認めざるを得ぬが、取締役、監査役を解任するには商法第二百五十七条、第二百八十条、第三百四十三条により、特別決議事項として、発行済株式総数の過半数に当る株式を有する株主が出席し、その議決権の三分の二以上に当る多数を以つて決議をなすことを要するものであるところ、前認定の通り、九月十六日の継続会に於ける原告等の取締役、監査役解任の決議が、右の要件を欠如してなされたものであることが明白であるから、右解任の決議は、その決議方法が法令に違反してなされた点に於て違法であると言わねばならない。更に、右解任の決議と、同時に行われた訴外宅井等を取締役、監査役に選任した決議とは旧役員を解任した上之に代るべき新役員を選任した行為なのであるから、両者は言わば不可分離の関係にあり、論理上一体のものと言うべく、従つて、前者が違法であれば後者も当然違法たるを免かれないものである。

(三)  而して、右の如き株主総会招集手続の瑕疵及び決議方法の瑕疵が、商法第二百四十七条に定める瑕疵に属し、同法第二百五十二条に定める決議の内容に関する瑕疵でないことおのずから明瞭であるから、九月十六日の決議は違法として取消されるべきものであつて、之が無効であることを確認することは許されないところである。果して然らば、原告等の予備的請求は正当として之を認容すべきも、第一次的請求は失当として之を棄却しなければならない。ところで、九月十六日の決議に於て選任された取締役、監査役の全員が、昭和三十六年十一月十九日辞任していること前記の通りであるので、原告等が現在、九月十六日の決議の内、取締役、監査役選任の決議につき、取消を求める法律上の利益を有するか否かが一応疑われないではない。然し乍ら、九月十六日に選任された取締役、監査役が十一月十九日に至り辞任する迄の間に、会社内部及び第三者との間に発生せしめた法律関係を遡及的、対世的に取消すべき必要は現在も存在し、争の対象となる権利関係は尚存続していると言わねばならないから、右の点は本訴請求に何等の影響をも与えないと考えるべきである。

五、よつて、原告等の予備的請求を理由あるものと認めて之を認容することとし、第一次的請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条、第九十四条を各適用した上、主文の通り判決する。

(裁判官 西口権四郎 石垣光雄 加藤一隆)

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